退職金を3つの資金に分けて考える

退職金の全額を預金または投資のどちらか一方に振り分ける必要はありません。使う時期と目的に応じて資金を分けると、生活の安定を保ちながら投資信託を検討しやすくなります。

すぐに使うお金

日々の生活費や税金、社会保険料、住宅費など、1年程度のうちに使う可能性が高いお金です。価格が変動する投資信託ではなく、普通預金など引き出しやすい場所に置くことが考えられます。

数年以内に使う予定のお金

自宅のリフォーム、車の買い替え、家族への援助、旅行、医療・介護への備えなどです。使う時期がある程度決まっている場合は、値下がりする可能性がある商品への投資は慎重に判断します。

当面使う予定がないお金

すぐには使わず、10年程度またはそれ以上保有できる可能性がある資金です。この部分については、預金だけでなく、投資信託による資産運用を検討する余地があります。

ただし、退職金のうち何割を投資するのが正解かは一律に決められません。投資経験がない人が、退職金を受け取った直後に大きな金額を投資すると、値下がりしたときに不安が大きくなりやすいためです。

退職金の運用に投資信託が使われる理由

投資信託は、少額から複数の資産へ投資しやすく、購入時期も分けられる金融商品です。個別株式を自分で選ぶことが難しい人にとって、資産運用の選択肢になります。

複数の資産へ分散しやすい

投資信託は、多くの投資家から集めた資金をまとめ、株式や債券、不動産投資信託などに投資する金融商品です。一つの商品を購入するだけで、国内外の多数の企業や債券へ分散投資できるものがあります。

個別株式を自分で何十社も選ぶ方法と比べると、投資先の選定や管理にかかる負担を抑えやすいことが特徴です。

積立購入を設定できる

投資信託は、一度にまとまった金額を購入するだけでなく、毎月一定額を積み立てる方法も選べます。

例えば、投資に回せる資金が300万円あったとしても、最初から全額を購入する必要はありません。毎月数万円ずつ購入したり、一部を購入して残りを積み立てたりする方法があります。

購入時期を分ければ、価格が高い時期にも安い時期にも買うことになります。ただし、積立投資を行えば必ず利益が出るわけではなく、相場が下落し続ければ評価損が生じます。

NISAを利用できる

NISAは、投資信託や株式などから得た売却益や分配金が非課税になる制度です。通常の課税口座では利益に対して税金がかかりますが、NISA口座内で得た利益は非課税になります。※3

退職金の一部で投資信託を始める場合も、NISAの利用を検討できます。ただし、NISAは損失を防ぐ制度ではありません。購入した投資信託の価格が下がれば、NISA口座であっても元本割れが起こります。

退職金を一度に投資しない選択肢

まとまった退職金があるからといって、一度に大きな金額を投資する必要はありません。投資経験や値下がりへの不安を考慮しながら、段階的に始める方法があります。

投資額よりも続けられるかを考える

退職金を受け取ると、普段より大きなお金が口座に入るため、「せっかくなら運用したい」と考えることがあります。しかし、大きな金額を一度に投資すると、少しの値下がりでも損失額が大きく見えます。

例えば、100万円が10%値下がりした場合の評価損は10万円ですが、1,000万円では100万円です。下落率は同じでも、金額が大きくなるほど心理的な負担が増し、慌てて売却する原因になることがあります。

まずは少額から投資信託を購入し、値動きにどの程度耐えられるかを確認する方法があります。積立投資を続けてから、必要に応じて金額を見直しても遅くありません。

金融機関の提案をその場で決めない

退職金が振り込まれた銀行などから、投資信託や保険商品を提案される場合があります。説明を受けること自体は選択肢を知る機会になりますが、その場で契約する必要はありません。

投資対象、元本割れの可能性、購入時手数料、信託報酬、解約時の費用、運用期間、分配金の仕組みなどを確認し、複数の商品や証券会社を比較することが重要です。

退職金を全額貯金することも、全額投資することも、誰にでも適した方法ではありません。生活に必要な預金を確保したうえで、当面使わない資金の一部を投資信託で運用するなど、自分が不安なく続けられる配分を考えることが、老後資金を長く管理する第一歩になります。

※1 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年6月分」
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html
※2 日本銀行「参考図表:2026年第1四半期の資金循環(速報)」
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf
※3 金融庁「NISAを知る」
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know/