長年勤めた会社から退職金を受け取ったとき、「投資で減らすのは怖いから、全額を銀行に預けておこう」と考える人は少なくありません。預金は金額が大きく変動しにくく、必要なときに引き出しやすいため、老後の生活を支える大切な資産です。
一方で、退職金のすべてを普通預金や定期預金のまま保有することが、必ずしも本人の希望に合うとは限りません。物価が上昇すると、口座残高が減っていなくても、そのお金で買える商品やサービスの量が少なくなる可能性があるためです。
退職金を預金することと、退職金の一部を投資信託などで運用することは、どちらか一方だけを選ばなければならないものではありません。預金と資産運用の役割を分け、老後の生活に支障が出ない範囲で組み合わせる考え方があります。
退職金を全額貯金した人に起こり得ること
退職金を預金しておけば、投資商品のように市場価格によって大きく値下がりすることはありません。しかし、老後の支出や物価の変化まで含めて考えると、口座残高が想定より早く減る可能性があります。
想定ケースとして考えてみる
ここでは、老後に起こり得る状況を分かりやすくするため、架空のケースを紹介します。
60歳で退職したAさんは、退職金として受け取った2,000万円を全額定期預金に預けました。Aさんは投資経験がなく、株式や投資信託は値下がりするのが怖いと考えていたためです。
退職直後は年金の受給開始まで期間があり、生活費の一部を退職金から補いました。その後も自宅の修繕費、家電の買い替え、子どもの結婚祝い、医療費などが重なり、預金残高は少しずつ減っていきます。
さらに、食料品や日用品、光熱費などの価格が以前より高くなり、同じ生活を続けるために必要な金額も増えました。Aさんは「投資をしていないから資産は守れている」と考えていましたが、実際には預金を取り崩す速度が想定より速くなっていました。
このケースで問題なのは、退職金を預金したこと自体ではありません。将来の支出を整理せず、老後資金の全額を一つの方法だけで管理していたことです。
口座残高が同じでもお金の価値は変わる
総務省が公表した2026年6月分の消費者物価指数では、総合指数が前年同月比1.7%上昇しました。※1
物価が上昇すると、100万円という預金残高が変わっていなくても、購入できる商品やサービスの量は以前より少なくなることがあります。預金には価格変動を抑えやすいという利点がありますが、物価上昇による購買力の低下を完全に防げるわけではありません。
ただし、物価は毎年一定の割合で上昇するとは限りません。上昇率が低下する年や、一部の商品価格が下がる時期もあります。「預金をしていると必ず大きく不利になる」と考えるのではなく、現金だけに偏った場合にどのような影響があるかを把握することが重要です。





