世帯年収が1,000万円あると聞くと、「家計には余裕があるはず」と思われがちです。ところが実際は、給与明細を見るたびに「こんなに引かれるの?」と感じたり、思ったほど貯金が増えなかったりして、手取りの体感が厳しくなる家庭も少なくありません。原因は、浪費ではなく「年収」と「手取り」の間にある仕組みを知らないまま、生活設計をしてしまうことにあります。ここでは、税金と社会保険の基本を押さえながら、手取りが伸びにくい理由と、家計を立て直す順番をやさしく整理します。

年収と手取りはそもそも別の数字

年収は「税金や社会保険料が引かれる前の合計額」なので、手取りと一致しません。

会社員の場合、給与や賞与の支給額が積み上がったものが年収として語られます。一方で、実際に口座へ振り込まれる金額は、そこから社会保険料や所得税などが差し引かれた後の金額です。つまり、世帯年収1,000万円と聞いてイメージしやすい生活水準は「手取りではなく額面」を元にした印象であることが多く、ここにギャップが生まれます。

社会保険料は先に差し引かれるので重く感じやすい

手取りの体感を強く左右するのは、税金より先に引かれる社会保険料です。

会社員の社会保険料には、年金や医療保険などが含まれ、給与(標準報酬月額)や賞与(標準賞与額)をもとに計算されます。たとえば厚生年金保険料は、標準報酬月額・標準賞与額に保険料率を掛けて計算し、事業主と被保険者が半分ずつ負担する仕組みです。厚生年金保険料率は18.3%で固定されていることも公表されています。

ここで注意したいのは、会社が負担している分は給与明細の「差し引き」には出てこない点です。本人の手取りは本人負担分だけが減る形で見えるため、「引かれている感覚」が前面に出やすくなります。家計管理では、社会保険料を「固定費の一部」として扱い、最初から手取りベースで生活設計するのが現実的です。

所得税は課税される所得に税率を掛けて決まる

所得税は年収そのものではなく、控除後の「課税される所得金額」に対して計算されます。

会社員の給与には、一定の要件のもとで給与所得控除があり、給与収入からその控除を反映した上で所得を計算します。さらに各種控除を差し引いた後に「課税される所得金額」が決まり、その金額に応じて所得税の税率が段階的に上がる仕組みです。国税庁が示す速算表でも、税率は複数の区分に分かれており、課税される所得金額の水準によって適用される税率が変わります。

世帯年収1,000万円といっても、片働きで1人が高い給与を得ているのか、共働きで2人に分かれているのかで、課税のされ方や控除の効き方が変わります。「同じ世帯年収なのに、手取り感が全然違う」ことが起きるのは、この構造が背景にあります。

住民税は前年の所得で後から来るので家計を揺らしやすい

住民税は「今の年収」ではなく「前年の所得」をもとに課税されるため、タイミングのズレが手取り感を悪化させます。

住民税(個人市民税・県民税)は、所得に応じて課税される部分と、一定額を負担する部分で構成されます。また、所得割の税率については、指定都市では内訳が変わるものの、合計としては10%となる標準税率が示されています。給与からの特別徴収(天引き)の場合、年の途中から住民税の負担が始まるため、「ある月から急に手取りが減った」と感じやすいのが特徴です。

転職や育休・休職などで収入が変動した翌年は、前年所得ベースの住民税が家計に重くのしかかることがあります。家計では、住民税が動く時期を見越して、生活費のバッファを確保しておくと安心です。

手取りが悲惨に感じる家庭で起きやすい三つのズレ

世帯年収1,000万円でも苦しくなるときは、手取りの範囲と支出設計が噛み合っていないことが多いです。

住宅費が手取りベースで見えていない

額面で見たときに「払えそう」と感じる水準で住まいを決めると、実際の手取りとのズレが出やすくなります。特に、固定で出ていく住居費は家計の自由度を強く左右します。

年に数回の出費が毎月の家計に混ざっている

税金、保険の年払い、更新費、車検、家電の買い替えなどを「その月の支出」として処理していると、月々の黒字が安定しません。年間でならす仕組みがないと、貯金は増えにくくなります。

共働きでも家計の出入口が分散している

口座やカードが複数に分かれ、引き落とし日もバラバラだと、合計の支出が見えにくくなります。手取りが多い家庭ほど「見えない支出」が積み上がり、体感が厳しくなりがちです。

今日からできる家計の整え方は手取りを先に確定させること

改善の第一歩は「使えるお金」を先に確定し、その範囲で暮らす仕組みに変えることです。

  1. 給与明細の差し引き項目を確認し、社会保険料と税金を家計簿で別枠にする
  2. 毎月の生活費は「手取りの中から払うもの」だけに限定し、年に数回の出費は別枠で月割りにする
  3. 住民税が変わるタイミングに合わせて、生活費の余力を積み上げる
  4. 支払いの出入口を寄せて、今月いくら使ったかがすぐ分かる形にする

世帯年収の数字に振り回されるよりも、「手取りで回る家計」に設計し直すほうが、安心感も貯まり方も安定します。まずは明細を見ながら、差し引きの内訳を把握するところから始めてください。

出典:国税庁 No.2260 所得税の税率

出典:国税庁 No.1410 給与所得控除

出典:日本年金機構 厚生年金保険の保険料

出典:横浜市 個人の市民税・県民税について